RIVALS EYE【第三節：金木犀の肌】

RIVALS EYEとは

ライバル達が熱いホンネをぶつけ合う

30リーグ2025参加団体による公式戦の観戦レポートです

今回は第三節

『AND FAMILIARS×ルイボスティーはバニラの味』

を

金木犀の肌がレポート

はたしてライバルはこの試合をどう観たのか？

AND FAMILIARS『欠乏×願望UNIVERSE』

真っ暗な空間に、白く浮かび上がる3人の人間。
概念的なセリフ群とドラマティックなオープニングパフォーマンスに始まり、その後は小ネタ満載の小気味よい会話劇が繰り広げられていく。
だが、その合間合間に挟まる不穏な空気。
笑いと不穏が何層にも重なり、独特な空気感を形作る。

そのような形式の脚本ならびに演出だったかと思うが、なぜか私は、この作品の世界へなかなか入り込むことができなかった。

もしかすると、一番初めに置いていかれてしまったことが、大きな要因のひとつなのかもしれない。
初めのオープニングパフォーマンスは振付がとても素敵で、心惹かれた。
ただ、そのときに、音響にかき消されて演者のセリフが聞こえなかったのが、少し心に引っかかった。
「内容がわかる/わからない」以前に、セリフが聞き取れない。わずかな量のセリフだったのに、たったそれだけのことで、心が少し離れてしまった。

パフォーマンス後のシーンも、セリフは小気味よく運ばれていくのに、なぜか前のめりになれなかった。
初めに置いていかれたからなのか、「ここはどこ？」「この人たちはなに？」「どういう目的で喋っているの？」というこの作品の"謎"について、
「脚本上で意図された謎」と「意図せず生まれてしまった謎」が、私の中で混じりあってしまっていたのだと思う。

次回作ではぜひ、一人の観客として、AND FAMILIARSさんともっと呼吸を合わせていきたい。
私はきっとこの世界を、まだ楽しめていないのだと思うから。

ルイボスティーはバニラの味『ここへおいで、ザウルス』

石﨑麻実と古後七海の才能が爆発していた。

客席に媚びない劇作り。
かといって、「自分たちだけが面白ければいい」という傲慢さや自己中心性も感じなかった。ただただ丁寧で誠実な劇作り。
それはかえって、とてつもなく客席に向き合っているとも感じられるし、なにより、世界に対してどこまでもまっすぐに向き合う姿勢が、本当に美しいと思う作品だった。

俳優陣もお一人お一人本当に素晴らしく、最初から最後までずっと見入ってしまった。

まず触れたいのが、旗手絵美子さん。セリフのないシーン、落ち着いたトーンでも観客にいろいろなことを思わせる、全身で語るその凄み。
旗手さんに照明が当たり、その顔に暗闇と光の両方が立ち現れたとき、その顔が、般若のようにも、聖母のようにも見えて、あまりに雄弁なその無表情に鳥肌が立った。

そして、二宮千明さんも本当に素敵だった。
セリフがなくとも、この人（役）がとても真面目な人であることがこれでもかと伝わってくるその演技は、旗手さんと同じく、寡黙なのに雄弁。
語尾の最後までいろいろな感情が詰まり、混ざり、移り変わり続ける、気の抜けない、最後まで集中して聞かないとと思わせられる、そんな演技があまりにも素晴らしかった。

それから、佐藤こころさんもとても素敵だった。
「行方不明になった女子高生」。"もともと女子高生だった身"としては少々不愉快ではあるが、しかしやはり、「行方不明になった女子高生」というのは題材としてセンセーショナルで興味を惹かれる（悲しいことに）。
そして、そんな「否が応でも注目を浴びてしまう存在」としての、ひとつの圧倒的な正解が、ここに叩き出されていたと思う。
鈴のなるような可憐な声に、およそ演劇公演とは思えないほど細く弱い発声。「私お芝居上手いでしょ」という自己顕示欲など一切滲み出ない抑制。まったく私欲のない演技。それが、「行方不明になった女子高生」という存在にとてもぴったりだった。

そして、たろうさん。
私の中の"救われなかった女子高生"が、もうどうしようもなくあのお兄さんに惹かれている。
私自身、実際に、家出をしたり登校拒否をしたりと"不安定な女子高生"だったのだが、あのときの私はまさに、こういう「お兄さん」を求めていたのだ。
なんか適当で、こちらの事情の重大さなんかなにもわかっていないようで、きっと幸せに生きているんだろうなと思う優しさと温かさをもっていて、思いっきり寄りかかってもよさそうな。その適当な優しさと温かさが、シリアスすぎる自分の人生にはまさに必要不可欠なもので。寒い海辺で、なにもわかっていない人間に与えられる、ジャケットの温かさと人間のにおいはそりゃもう「丹波に連れてって」だよ。本当によかった。

しかしやはり、4名の素晴らしさの底にあるのは力のあるこの脚本であり、そしてこの4名をこのように配置し、ディレクションし続けたのは演出であるから、石﨑麻実と古後七海の才能が凄い。

私は、いい演劇作品の条件のひとつに「どれがだれの仕事かわからない」ということがあると思う。
演劇を見ていると、「役者は素敵だな」とか「脚本は面白いな」とか、だれがよい仕事をしたのかがハッキリわかってしまうことがある。
でも、この作品は、どこがだれの仕事なのかがとてもわかりにくかった。ということは、全員がよい仕事をしていて、そのよさが見事に調和し、互いに溶け合っていたのだと思う。
本当に面白く、そしてなにより、美しい作品だった。演劇への、世界への、人への美学と信念が、この作品からは感じられた。

青草猫(金木犀の肌)